THE NEWZ Vol.15 日本語
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抗菌薬耐性菌のなにが問題なのか?この21世紀に優秀な研究者をもってしても世界各地で治療のできない感染症によって人、動物、そして植物までもが命を落としている。この感染症は抗菌薬耐性菌(AMR)と呼ばれる細菌の増加によるものである。WHO(世界保健機関)は、AMRに関連した感染症が2050年までに年間1000万人もの抗生物質 : 細菌感染を予防、治療するための薬抗菌薬耐性 : 細菌が抗生物質に対して耐性を持つこと。一度細菌が抗菌薬耐性を獲得すると、元来抗生物質で治療できた感染症も治療不可能な感染症へと変貌する。抗菌薬耐性に対して行動を取らなければならない理由は主に4つある。①耐性菌による感染者数は世界で年間およそ80万人OECD(経済協力開発機構)の調査によると、世界の感染の70%近くが医療現場で発生している。特にがん患者やHIV陽性患者など、免疫力が低下している人に多くみられる。②ヨーロッパでのAMR関連の死者は2020年に3万5000人に登った単純計算でヨーロッパでは毎日100人はAMR関連の感染症で命を落としていることになる。以前は治療可能であった感染症も、耐性菌の増加に伴って治療が困難になることやそれによる長期の入院によって他の感染症や病気のリスクも増加する。この先耐性菌が増え続ければ、小さな擦り傷や比較的小規模の手術でさえ人々の命を脅かすことになるだろう。③耐性菌の対策にかかる膨大な費用多くの人は継続的に新たな薬を開発し続ければ解決できると考えているかもしれない。だがそれは現実的に不可能である。ヨーロッパでは耐性菌の対策で年間およそ11ユーロ(1650億円)の膨大なコストがかかると計算されている。また、新しい医薬品を開発し、市場に出すまでに平均で約10億ユーロ(1500億円)が必要と言われている。さらに、1つの新薬を開発するのに必要な期間は合計で10年から15年程度であり、耐性菌命を奪うことを予測している。私たち若者世代はこの問題を若く知識がないからという理由だけで無視し続けてはいけない。医療従事者を目指す1人の学生として私はこの問題に対する意識を向上させるべく今回このテーマを取り上げることにした。全てと闘うために必要な薬の数を考慮すると時間と費用がかかりすぎてしまう。④耐性菌が経済に与える打撃人間だけでなく動物も細菌に感染するため、耐性菌は人間の食にも影響を与える。家畜や畜産物の取引はしばしば細菌によって左右される。例として、鳥インフルエンザや豚インフルエンザが挙げられる。人間が直接感染することのない病気ではあるが、感染した動物に直接接触したり、動物が感染の媒体となって人にも感染する。そのため抗生物質への耐性は動物と人のどちらもを危険に晒すことになる。近い将来、細菌感染によって動物性の食物が市場に出る量が減る可能性がある。(ちなみに現在抗生物質の消費量は食用動物よりも人間の方が多い)さらに恐ろしいのは「最後の砦」と呼ばれる抗生物質に対する耐性菌が増えていることだ。「最後の砦」とはその名の通り他の治療薬や治療法が効かない場合に使用される薬のことである。従来使用可能であった薬への耐性が進むことによってそのような薬を使う機会が増えていることに起因しているといわれている。もし有効な対策が取られなければ、COVID-19のような世界的なパンデミックが元々存在していた細菌によって再び起こるかもしれない。実際にAMRに関連した死者数は年々急速に増加しており、私たち「Z世代」が平均寿命を迎える頃には死因の1位になることが予測されている。9高野内 翔太 センメルワイス大学恐怖の細菌 抗生剤と耐性菌

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