世界の医学教育制度は、経済的、人口統計学的、技術的変化の影響を受け、多くの課題を抱えています。ハンガリーと日本も、医師の育成と維持においてそれぞれの壁に直面しており、世界的な医療水準への適応と医学教育の国際化という新たな問題によってより難しい状況になっています。今回は以下の4つのテーマに焦点を当てていきます。(1)医学生と教員の募集と流出(2)国際化の影響(3)グローバルスタンダードへの適応(4)医学教育の改革ハンガリー : ハンガリーの医学教育システムは、しばしば 「ブレインドレイン」と呼ばれる卒業生の国外移住に悩まされています。西欧諸国の高い給与とより良い労働条件に惹かれた医療従事者は、海外で働くことを選択する傾向が増え、国内の医療従事者の減少につながっています。ハンガリー政府は、賃金の引き上げや労働条件の改善といった政策を実施していますが、いまだに現場ではそれほど変化が見られず医療従事者の雇用の低下につながっています。ハンガリー : ハンガリーの医学部には多くの留学生が在籍しています。これにより多くの利益と課題がもたらされています。ハンガリーの外貨獲得の手段となる、グローバルな視点がもたらされるという利益がある一方で、留学生とハンガリー人教授との間に言語の壁が立ちはだかるという懸念も生じています。医学という学問の理解はその伝え方によって大きく左右されるため、理解の齟齬に繋がる可能性のある言語の壁は気になるところです。しかし一方で、ハンガリーがこの問題を解決しない限り、適切な「国際化」には至らないとも言えます。 日本 : 対照的に、日本の課題は地方での医療従事者の新規獲得にあります。競争的でストレスのかかる医学部の環境は、長時間労働を評価する文化的な背景と相まって、若者の医療職という選択自体の減少に繋がっています。さらに競争率の高さゆえに、人口の多い地域の学生が地方で勉強し都市部に戻るという問題もあります。そのため、日本政府は積極的に医療が行き届いていない地域で働く意思のある医学生に奨学金やローン免除プログラムを提供し、医療従事者の不足と偏りの両方に対処しています。 日本 : 日本では、言語の壁、そして長年をかけて構築されたカリキュラムや日本の変化を好まない文化的側面が医学教育の国際化において大きな障壁となっています。留学生や海外の教員を募集、採用する努力はこういった課題によって妨げられ、日本の医学教育を国際的に発展させることへの壁となっています。しかし、英語でより多くのプログラムを提供できるように努力している大学も増え、海外の研究などに学生が参加できるようにするための取り組みは進んでいます。9高野内 翔太センメルワイス大学 はじめに医学生と教員の募集と流出 国際化が医学教育に与える影響医学教育における課題
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