THE NEWZ Vol.24 日本語
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ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ大学(フランクフルト、ドイツ) ドイツの薬価制度:AMNOGと医学研究法の改定13若林 大毅近年の医療技術の進展はAMNOGに新たな課題をもたらしています。遺伝子治療や精密医療といった新たな治療法は患者数が限られ、従来の評価基準であるランダム化比較試験が適用しにくいケースが増加しているためです。これにより、追加利益の評価方法や価格交渉プロセスに柔軟性が求められている状況です。日本でもドイツでも、高齢化の進展や先進医療の導入によって、医療費全体が年々上昇傾向にあります。特に日本は、世界でもトップクラスの高齢化率を誇り、ドイツも同様に高齢化が進行中です。こうした人口構造の変化や医療技術高度化による費用の高騰化は、多くの先進国に共通する課題となっています。右図 (OECD Health Statistics から作成)で示すように、日本とドイツの医療費が GDP に占める割合は、いずれも2010 年前後から右肩上がりで推移してきました。この医療費の上昇は国民皆保険制度を有する両国にとって重要な課題であり、保険財政や税負担の観点からも社会的インパクトが無視できないレベルに達しつつあります。医療費全体の中でも特に大きなシェアを占めるのが「薬剤費」です。例えば、厚生労働省の公表データ(図 2)によると、 2022 年の日本の医療費、約 33.8 兆円のうち、薬局調剤医療費は約8兆円にも及び、薬剤費がかなりのウエイトを占めることがわかります。特に新薬やバイオ医薬品は開発コストが高額なため、導入が増えるほど薬剤費が膨らみやすくなります。そこで本稿では、医療費支出の上昇が続く日本とドイツを比較しながら、医薬品費を中心とする薬価制度について考察します。まずは、ドイツの薬価制度の特徴を概観したうえで、日本の薬価制度との違いや課題を明らかにし、今後の医療費・薬剤費管理のあり方を探っていきます。ドイツでは、新薬の医療上の価値を評価し、持続可能な医療費管理を目指すため、2011年にAMNOGという制度が導入されました。この制度では、新薬が市場に投入された直後の6ヶ月間は、製薬会社が自由に価格を設定します。その後、追加的利益の評価を基に価格交渉を行う仕組みです。この評価では、「新薬が既存治療法と比較して、どの程度の医療上の価値を提供するのか」をG-BAとIQWiGという組織が共同して審査します。評価結果をもとに、製薬会社とドイツの公的保険期間であるGKV-SVが償還価格を交渉し、合意に至らない場合は仲裁委員会が最終的な価格を決定します。この仕組みにより、新薬が迅速に市場投入されると同時に、数十億ユーロもの医療費の削減にも寄与してきました。一方、日本とドイツの薬価制度を比較する:医療費増加の時代における新薬普及と費用抑制の両立

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