3 私たちの医療システムが抱える課題ネオマビジネススクール(ルーアン、フランス)ピダーソン緑みなさん、こんにちは。この記事をみなさんが読む頃には、新年も幕をあけ、新年の抱負を描いている所かもしれませんね。今年、社会人になる私の抱負は、新しい環境・新しい仕事を楽しみながら、自分らしく元気に過ごすこと。可能であれば、病院にお世話にならない一年にしたいなと思っています。さて、インターナショナルな大学に通っていると、さまざまな国の人と話す機会があります。そんな中で、自国の足りない部分や恵まれている部分に気付かされることは珍しくありません。先日、アメリカ人の友人と話していた際は、日本の保険制度や医療システムについて考えさせられました。昨年12月、アメリカにおいて保険業界の不正を動機に、26歳の男性が保険会社の幹部を殺害した事件は、まだ記憶に新しいと思います。「一命を取り留めるには治療が必要と告げられている。それなのに、保険会社は、何にも気にしてないかのように、支払い拒否をするんだよ。だから、一患者であった犯人を完全に否定することは私にはできないの。」日本:現在、日本の医療が抱える問題の大半が、高齢化と生産者人口の減少によって引き起こされています。65歳以上の人口は著しく増え続けており、その割合は、2010年には20%を超え、2065年には約40%を占めると予想されています。一方で、15歳以上65歳未満の生産年齢人口は、1990年には63%を占めていましたが、2020年には51.6%に低下、2065年には半数以下になる見通しです。これによって、二つの大きな障壁が生まれます。まず、医療の利用者が増えているのに対して、医療従事者が減少しています。つまり、十分な医療を提供するだけの人材が足りていないのです。この傾向は特に過疎化地域で見られ、医師の引退を機に医療機関の閉鎖が相次いでいます。次に、国民医療費の支出が増大している傍で、保険料・税金を支払う働き手が減少し、財源の確保が難しくなっています。実際に、国民医療費支出の61%を65歳以上が占め、一人当たりの金額も、65歳以上は73万3700円と 、65歳以下の約4倍にもなります。増大する国民医療費をどのように抑えるか、また財源をどこから確保するかが大きな課題となっています。そんな風に友人が語っていたのを聞いて、「待ち時間なく治療を受けられて、保険で負担が減る」ことを当たり前と捉えていたことに気付かされました。現在のシステムを、できればより良くして、次の世代に残したい。そう思って調べてみたところ、たくさんの問題が見えてきました。今回は、私たちが後世の医療のために向き合うべき問題を、日本とフランスを比較しながら紹介します。フランス: 日本や多くの欧米諸国と同様に、トップレベルの医療水準を維持しているフランスですが、主に2つの深刻な課題に直面しています。一つ目は、医療費の財源圧迫です。フランスでは、65歳以上の人口が22%を占めており、2070年には、2人に1人が65歳以上の高齢者と同居することになるとのことです。また、主要な死因となっている心血管疾患、運動不足と関連づけられる2型糖尿病、がんの発症率など、慢性疾患や長期的な医療ケアが必要な生活習慣病が増えていることも財源の圧迫に繋がっています。もう一つは、医療の地域格差です。フランスでは、数十年間にわたる医学生の定員制限によって、医師が足りなくなっていること、農村地域での生活の不便さから、医師が都市集中していることが要因となっています。2019年に施行された「医療従事者教育改革法」によって医師の数は増えると予想されていますが、依然として医師の偏在を解決する必要があります。先進国の医療は持続可能なのか
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