9 ドイツのBelastungsgrenz 日独の制度比較個人の負担額は、全てのGKVに加入している被保険者に適用されます。個人の負担限度額は、世帯全体の経済的能力に基づいて計算されます。すなわち、被保険者と同じ世帯に住む家族全員の自己負担額と総収入を合算して評価されます。家族1人ごとに一定の控除額が設けられており、この控除分は世帯全体の総収入から差し引かれます。 また、ドイツでは患者自身が年間の自己負担額を管理し、負担上限に達した場合は自ら申請してその後負担を免除される制度を採用しています。これにより、患者自身が医療費に対する意識を持ち、無駄な医療の使用を防ぐことを意図しています。ただし、自己申告制であるため、患者側には一定の管理能力が求められ、情報が不足している場合には本来の恩恵を受けられないという課題も存在しています。特に、重篤な患者の経済的な不安を軽減する制度設計は今後ますます重要となります。一方で、制度の持続性を保つためには、軽症・不要不急の受診への対応や費用対効果の低い医療の見直しといった視点も欠かせません。今回の制度比較を通じて見えてきたのは、「重症患者を守るセーフティーネットは堅持しつつ、効率的で無理のない運用を目指す」ことの重要性です。限られた財源の中で、より効果的な医療提供体制を整えていくことこそが、今後の医療制度改革の鍵になるのではないでしょうか。 ドイツの法定健康保険(GKV)の被保険者は、特定の医療サービスに対して自己負担をする義務があります。この法定の自己負担制度は、被保険者が自身の経済的能力に応じて、費用意識と責任を持って医療サービスを利用することを促す目的で導入されています。しかしながら、病気や障害を抱える人々が医療を十分に受けられなくならないように、また法定の自己負担が加重な負担とならないように、「負担限度額(Belastungsgrenz)」が設けられています。そのため、どの被保険者も、1年間の自己負担が生活費に対する総収入の2%を超えることはありません。なお、重度の慢性疾患を抱える被保険者の場合は、限度額が1%に引き下げられ、経済的な負担が大幅に軽減されています。 日本の高額療養費制度とドイツのBelastungsgrenzeは、いずれも「患者の経済的負担を抑え、安心して医療を受けられるようにする」という点で共通しています。一方で、日本は「月ごと」に自己負担の上限が設定されており、事前に認定証を取得すると、窓口での支払額が上限まで抑えられます。これに対し、ドイツでは「年間」の負担上限を患者自身が管理・申告しなければならないという大きな違いがあります。この相違は、保険制度の設計思想だけでなく、患者自身が医療費とどう向き合うかという視点にも影響を与えています。医療制度において最も重要なのは、「必要な患者に、必要な医療が、過度な負担なく届くこと」です。日本とドイツは異なるアプローチでこの目標を実現しようとしていますが、どちらの制度にも学ぶべき工夫が見られます。
元のページ ../index.html#10