多くの島国、特に小島嶼開発途上国(SIDS)は、質の高い医療のアクセスにおいて多くの課題に直面していま 現在の対策とは モルディブ:医療の現状と対策 モロカイ島:現状と対策11 ICT機器を活用した医師と患者の遠隔医療、いわゆる「オンライン診療」は2020年4月に規制が大幅に緩和され、地域医療現場での活用が進んでいます。交通手段が限られている患者でも診療を受けることができ、医師不足問題の解決につながるとして、離島やへき地でもオンライン診療導入の動きが広がっています。しかし、2021年に全国のへき地診療所を対象に行った調査では、オンライン診療を実施している診療所はわずか7.8%(40診療所)にとどまり、ICTリテラシーの問題からか、オンライン診療の普及率は限定的であることが明らかになっています。す。インフラの未整備や輸送の課題、医療従事者の不足などが、医療サービスの提供を困難にしている主な原因です。SIDSであるモルディブは、近隣諸国と比較して保健分野において顕著な進展を見せています。その背景には、国家予算の多くを社会部門に充て、充実した保健制度の整備に注力してきたことがあります。しかし、こうした成果があるにもかかわらず、モルディブは全ての国民、特に小規模で過疎化した島々の住民に対して公平な医療を提供するのに依然として苦慮しています。その一因は、島々が広範囲に点在しているという地理的条件に起因しています。 モロカイ島は、規模に対して医療サービスの選択肢が非常に豊富です。主要のヘルスケアから専門医による訪問診療、ハワイ先住民の健康管理、さらには診断検査に至るまで、この島での医療サービスは過去50年間で著しく発展してきました。限られた患者層に対応するため、医療提供者が増え、サービスの多様化が進んだことが主な要因とされています。市民の多様な医療ニーズに応えるためには、医療機関同士の連携とコミュニケーションの強化がますます重要となっています。その中でも特に注目したいのが、モロカイ・コミュニティ・ヘルスセンターの取り組みです。ここでは、公衆衛生法に基づき、連邦政府から求められる中核的なサービスを提供しています。センターには、常勤の主要ケア医師2名、歯科医1名、歯科衛生士1名、行動衛生の専門家2名所属しており、家族支援、移動支援、紹介、保険加入、島外での受診予約などのサービスなども行っています。そこで注目されているのが、看護師のサポートを受けながら患者と遠隔地の医師を繋ぐオンライン診療、いわゆる「Doctor to Patient with Nurse」(D to P with N)です。有人島10島、無人島53島からなる長崎県五島市は、「デジタル田園都市構想」の一環として、遠隔地の患者にD to P with Nのセットを丸ごと提供する移動診療事業を2023年1月に開始しました。看護師は、医療機器とオンライン医療システムを搭載したマルチタスク車両に乗車し、事前に予約された患者の自宅に直接訪問します。患者が車両に乗り込むと、看護師が患者のバイタルサインをチェックしながら、主治医とリアルタイムでつながる仕組みになっています。このような医療MaaS(Mobility as a Service)の取り組みは今後、他の地域への応用やさらなる拡大が期待されています。新型コロナウイルスのパンデミックは遠隔医療の重要性と、それが医療提供における障壁を克服する手段となる可能性を浮き彫りにしました。遠隔医療は、緊急性の低い医療サービス、薬の再処方、カウンセリングなどにおいて有効であり、高齢者や障がいを持つ人など、医療を受ける際に物理的な障害に直面する患者にとって大きな恩恵をもたらします。また、主要ヘルスケアを通じて統合医療サービスを強化し、より多くの医療従事者を育成すること、包括的な医療サービスを提供できるように病院の設備を向上させることが求められています。これにより、より良い医療を求めて首都や海外に出向く必要性を減らし、地域内で完結できる医療体制を構築することが期待されています。中でも印象的なのが、医療に困難を抱える人々や無保険者、保険未加入者を対象に、所得に応じたスライド制の料金体系でのサービス提供を使命としている点です。最高財務責任者であるサイラス・シウ氏は、「サービスはすべての人に」と謳っており、医療費は10ドル、歯科治療は30ドルですが、全額を支払える方はあまり目立たないとのことです。同センターのエグゼクティブ・ディレクターであるデジレー・プヒ氏は、患者が提供した情報(所得税の申告書や給与明細など)を確認するプロセスを経ると共に、カイロプラクティック、鍼治療、マッサージ、ネイティブ・ハワイアン・ヘルスなどの拡張計画についても言及しており、「ワンストップショッピング」、すなわち健康と地域社会を繋ぐ方活的な拠点となることを目標にしています。さらに、コミュニティ・ガーデン、認定キッチン、ヘルシー・ジュース・バー、カフェ、さらには他のパートナーやモロカイ島の団体向けのレンタルスペースも計画されているそうです。
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