THE NEWZ Vol.26 日本語
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8ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ大学(フランクフルト、ドイツ)若林 大毅 日本の高額療養費制度 日本には、どれほど高額な医療を受けても一定の自己負担額を超えれば、それ以上の支払いが免除される「高額療養制度」という仕組みがあります。この制度のおかげで、がんなどの重篤な疾患を抱えている患者やその家族が経済的破綻を免れ、安心して治療を受けることができています。 しかし近年、日本では社会保障費の増大を理由に、この制度の自己負担限度額の引き上げが議論され、実際に制度改定が検討されました。もしこの限度額が引き上げられたら、重篤患者の医療へのアクセスはどのように変わるのでしょうか? 日本の高額療養費制度は、医療費が一定額を超えた場合に、その超過分を保険がカバーすることで、患者の自己負担額を抑える仕組みです。この限度額は所得や年齢に応じて決められ、重篤な疾患を抱える患者にとっての重要なセーフティーネットとして機能しています。具体的には、一般的な所得者の場合、自己負担の限度額は8万円程度ですが、所得が高い場合には最大で25万円を超えることもあります。また、所得の低い世帯や高齢者に対しては限度額がさらに低く設定されており、幅広い層に配慮した制度設計がなされています。 しかし、近年では医療費の増加に伴い、この制度の持続可能性が問われています。政府は医療費の抑制策としてことし8月の自己負担限度額の引き上げを検討しましたが、今回は見送りとなりました。自己負担限度額が引き上げられれば、経済的に余裕のない患者が必要な治療を諦めるリスクが生じ、医療の公平性が損なわれる可能性があるからです。このような背景からも、この制度は医療制度の中で極めて重要な位置を占めていると言えます。また、海外ではどうでしょうか?例えばドイツでは、高額な医療に対してどのような対策をとっているのでしょうか。実はドイツにも同じような制度がありますが、その運用方法は日本とは少し異なります。本稿では、日本の高額療養費制度が医療制度の中で果たしている役割を明確にしながら、ドイツの制度との比較を通じて、それぞれの制度が患者や社会全体にどのような影響を与えているのかを検証していきます。高額療養費制度の比較―日本とドイツの医療費負担軽減策の違いとは―

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