THE NEWZ Vol.27 日本語
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•7 教育・社会支援の違い:カナダのメンタルヘルスへの取り組み まとめ:外見への悩みが少なくなる未来へ 精神的な不調を感じても、「人に相談するのは恥ずかしい」、「弱いと思われたくない」といった社会的プレッシャーから、多くの人が悩みを一人で抱え込んでしまう傾向にあるのです。また、日本では身体の健康を維持するための定期的な健康診断制度は整っている一方で、心の健康を守るための制度はいまだ十分に整備されていないように感じられます。その結果、支援を必要としている状態にあることに自分で気づけなかったり、気づいても声を上げづらく症状が深刻化してしまう現状があるのではないでしょうか。 一方、カナダでは大学のカウンセリングサービスをはじめとして、メンタルヘルスへの意識が高く、学生が必要なときに支援を受けやすい環境が整っています。制度があるだけでなく、授業内でそのカウンセリングサービスの存在について積極的に言及されたり、大学施設内に数多くのポスターが掲示されていたりするなど、利用を促す取り組みが日常的に行われている点が印象的です。そのため、こうした支援を利用すること自体が自然で当たり前の行動として受け入れられており、心理的なハードルも低くなっていると感じます。 このように、制度を整備することに加えて、それらの制度が存在することを正しく伝え、利用を促す後押しもまた、支援の実効性を高める鍵となるのではないでしょうか。 今後、こうした取り組みを進めていく中で、日本においても「多様な美しさ」、そして「自分を大切にすること」が当たり前に受け入れられる環境が整備されることで、若年層の自己肯定感とメンタルヘルスの向上が期待できるでしょう。 今回焦点を当ててきた“自己肯定感の高・低”に加え、メンタルヘルス全体に対する社会的な向き合い方にも、日本とカナダの間には大きな違いが見られます。上に示したグラフは、実際に私がトロント大学のメンタルヘルスの授業で使用したもので、各国において精神疾患を抱える人のうち、実際に治療を受けている人の割合を示しています。このデータから注目すべきなのは、日本が“高所得国(High Income Countries)”に分類されているにもかかわらず、治療を受けている人の割合が最も低いという事実です。この背景には、日本社会において「心のケア=弱さ」と捉えるスティグマ(偏見)が、いまだに根強く存在していることも、重要な要因のひとつとして挙げられます。 今回は、外見に対する自己認識が若年女性のメンタルヘルスに及ぼす影響について、日本とカナダの文化的・制度的背景を比較するかたちでご紹介しました。上記での分析を踏まえて、日本社会における外見とメンタルヘルスの課題に対応するためには、以下のような取り組みが求められるのではないでしょうか。SNSや広告における美の基準の多様化•自分らしさが尊重される文化の醸成•心理的支援制度(カウンセリング施設、大学の相談窓口等)の整備と利用促進の仕組みの強化•精神的困難を抱える人々が支援にアクセスしやすくなるよう、制度の周知と利用のハードルを下げる社会的支援の工夫

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