THE NEWZ Vol.28 日本語
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政府の支援は主に医療通訳や医療言語に関する研究費に集中しており、現場で実務を担う翻訳者への支援は不十分です。このため、医療機関や NPO 法人、自治体などが協力し、限られた補助金の中で対応しています。たとえば神奈川県内の市町村では、NPO 法人と連携して「医療通訳派遣システム」を運営しています。県内の 71 の協定医療機関からの依頼に応じ、医療翻訳ボランティアを派遣しており、費用は 1 件あたり 2 時間で約 3,000 円程度。これを医療機関が負担しますが、一部を患者側に請求する場合もあります。こうした仕組みは一定の支援にはなっているものの、まだまだ安定した体制には至っておらず、多くの医療従事者が実務上の負担や対応の困難さを感じているのが現状です。は、それだけで信頼に足る存在だということです。そして、認定を受けた医療翻訳者として働くと、その待遇も非常に良いことが分かりました。タイの平均月収が 20,000 ~25,000THB( 約 7 ~ 9 万円 ) であるのに対し、医療翻訳者の給与は その 2 ~ 4 倍程度とされており、これはタイ国内でもかなり高水準の職種にあたります。生活費の高いバンコクにおいても、十分な経済的余裕をもって暮らせるレベルです。結果として、医療翻訳サービスが充実していることで、外国人にとっても安心して医療を受けられる環境が整いつつあると感じました。0 万円台に届いた」という話もあります。このような状況を踏まえると、医療翻訳者は高度な知識と語学力を求められる一方で、安定した収入や働きやすい環境が整っておらず、職業としての魅力を感じにくいのが実情です。その結果、必要なスキルを持つ人材が集まりにくく、日本では依然として優秀な医療翻訳者が不足しています。このような現状により、翻訳者のスキルにばらつきが生まれ、医療翻訳の全体的な質が不安定になります。翻訳の精度が低ければ、医療現場での誤解やトラブルを招きかねず、医療翻訳者の価値そのものが軽視されがちになります。「優秀な翻訳者に当たるかどうかは運次第」といった状況では、病院側も積極的に翻訳者を採用しにくいのです。こうした背景のもと、日本政府は医療翻訳の現場に対して積極的な支援をしているとは言い難い状況です。たしかに、外国人患者の受け入れ体制の整備や、多言語対応ツールの導入、研修費の一部補助といった取り組みは行われていますが、それらは限定的です。一方、タイでは「医療翻訳」の重要性が十分に理解されており、それに伴って医療制度そのものも大きく発展しています。実際に 2002 年に導入された「30 バーツ医療制度」として知られる公的保険制度により、現在では国民の約 99.5% が医療にアクセスできるようになっています。医療機関の数も多く、公立病院は全国に約 927 ヶ所、私立病院は約 363 ヶ所、さらに約 1 万件もの保健所やクリニックが存在しています。これらの医療体制を支える資金は、銀行からの融資や、医療翻訳サービスを立ち上げる会社自身の出資によるものなどによってさまざまな形で確保されています。日本ではあまり聞きませんがタイでは元医療従事者や翻訳の現場を経験してきた人たちが、自らの経験を活かして「自分の会社を作る」ケースが多くあるようです。日本とは少し異なりタイは医療制度の整備が進んでいて、医療翻訳者も非常に多い国であることが分かりました。ただ、私が気になったのは「医療翻訳者が多い」ということはスキルの差や質のバラつきも生まれるのではないかという点です。しかし調べてみると、意外にも日本ほど大きなばらつきは見られませんでした。タイでは、日本と同様に「国家資格」としての翻訳者認定は存在しません。しかし、代わりに SEAProTI という政府公認の認定制度や、NAATI、ITT といった国際的な資格、あるいは業界団体が発行する証明書などを通じて、専門性を証明する制度が確立されています。形式上は「誰でも翻訳者を名乗れる」状態ではありますが、実際に認定を受けるには専門性に特化した研修や試験が必要で、相当な語学力と知識が求められるようです。つまり、認定を受けた医療翻訳者というの3. タイの医療翻訳サービスの現状14

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