THE NEWZ Vol.28 日本語
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東京理科大学大学院(日本)伊藤 知尋1. 医療 AI とは何か2. 日本の医療 AI――芽吹きと課題高齢化で患者数が増え、特に地方では医師不足が深刻だからです。第二に医療データの量が急増し、人の目と手だけでは処理しきれなくなっているからです。第三に医療費の増大を抑えるうえで、効率化と早期発見が欠かせないからです。AI は医師の代わりになる存在ではなく、過重労働やヒューマンエラーを減らし、医療の質を高める「拡張ツール」と位置づけられています。もっとも AI の性能は大量で質の高いデータがあってこそ発揮されます。また診療に組み込むには保険制度や個人情報保護のルールが整備されていなければなりません。こうした環境が不十分なままだと、技術はあっても実際の医療現場で活用されない状況が生まれます。医療現場の基盤も課題です。地方や中小の病院では電子カルテや画像サーバーが旧式のまま残り、最新 AI を導入しても性能を発揮できない事例があります。加えて医療データを扱える AI 人材は慢性的に不足し、研究成果を現場に届けるまでの時間が長くなる構造が続いています。このように、日本の医療 AI は芽吹きつつも、保険制度、データ活用、病院インフラ、人材という四つの壁が成長を抑えています。医 療 AI と は、 病 院 で 用 い る 画 像 や 診 療 デ ー タ を コ ンピューターが学習し、医師の診断や業務を助ける技術です。たとえば胸部 CT や内視鏡映像を読み取り、がんの疑わしい部分を一瞬で示すことで見落としを防ぎ、診断までの時間を短縮します。また血液検査の数値や生活習慣をまとめて解析し、数日以内に容体が悪化しそうな患者さんを予測する仕組みも実用化が進んでいます。さらに診察室では、患者さんとのやり取りを音声で記録し、自動でカルテにまとめるツールが登場し、医師の残業時間を減らしつつ記録の質を保っています。こうした技術が注目される理由は三つあります。第一に日本でも医療 AI は確かに動き始めています。国立がん研究センターでは脳の動脈瘤を自動検出するソフトが保険収載され、追加費用なしで患者さんに提供されています。また問診チャットボットの導入により、来院者がスマートフォンで症状を入力すると要約結果が電子カルテに転送され、診察前の準備時間が大幅に短縮されました。一方で普及を妨げる壁は依然として高く、最も大きいのは保険適用の範囲が狭く審査期間が長いことです。多くの AI ソフトは臨床データを集めつつ審査待ちの状態にあり、現場では自由診療としてしか使えないケースが目立ちます。さらに病院間でデータ共有が進まず、AI 開発企業が十分な症例を確保できないため、国内モデルの精度向上が海外勢に追いつけていません。16日本の医療 AI は停滞している?ー前進を阻む課題と解決策

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