THE NEWZ Vol.28 日本語
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トリア大学(ドイツ)山田 心春1. 両国の医療制度と予防医療の基本方針2. 健康教育の制度的アプローチ  現 在 ド イ ツ に て「 持 続 可 能 な ビ ジ ネ ス と テ ク ノ ロ ジ ー(Sustainable Business and Technology)」を専攻している、山田です。ドイツでの生活を通じて特に強く感じたのが、社会全体における国際性の高さです。この国際性は、教育や医療といった制度的基盤の発展にも大きく寄与していると考えています。【日本】日本は「国民皆保険制度」を採用しており、すべての国民が何らかの公的医療保険に加入しています。予防医療に関しては、2008 年より導入された「特定健診・特定保健指導制度」により、40 ~ 74 歳を対象とした生活習慣病のリスク評価および保健指導が実施されています。しかし、20 ~ 30 代の若年層は制度の対象外であり、大学や職場などによって健診の実施状況に差があることから、若年層における予防医療の機会が限定的であるという問題が指摘されています。特に、非正規雇用者やフリーランス、学生などは、制度的に取り残される傾向があります。【日本の教育制度と課題】日本における健康教育は、主に学校教育における「保健体育」の授業を通じて実施されています(文部科学省 , 2022)。性感染症、栄養、運動、生活習慣病といった内容が扱われていますが、LGBTQ、メンタルヘルス、SNS 依存、薬物使用といった内容に関しては、地域差や教員の裁量によりばらつきが見られます。ケーススタディ:学習指導要領の内容と課題• 高等学校の学習指導要領には、性感染症やがん検診に関す• メンタルヘルスやストレス対処法についても限定的にしかまた、学校を卒業した後には、健康教育の機会が制度的にほとんど存在していないことから、生涯にわたる健康リテラシーの向上が困難になっていまする記述はあるものの、性的同意や多様な性の理解に関する教育は不十分です。取り上げられておらず、教育内容の体系性に課題があります。 そこで私は国際的な視点から医療制度を捉え、特に予防医療と健康教育における制度的な位置づけに着目し、日本とドイツという医療制度や社会構造の異なる二国を比較しながら、若年層への影響や制度的課題を考えていきます。【ドイツ】ドイツの公的医療保険(GKV)では、予防医療が法定給付として制度化されており、すべての被保険者に対して予防健診(Vorsorgeuntersuchung)やがん検診等の受診機会が提供されています。たとえば、6 歳以降の「青少年健診(J1, J2)」、35歳以降の「Check-up 35」などがあります。さらに、禁煙、運動、栄養改善といった生活習慣改善プログラムの費用を保険者が一部補助する制度も整備されており、若年層の予防行動が制度的に支援されている点が特徴的です。【ドイツの包括的健康教育モデル】ドイツでは、連邦教育省および各州教育庁が連携し、学校カリキュラムに「健康教育(Gesundheitserziehung)」を明示的に組み込んでいます。10 歳から始まる包括的な性教育、薬物依存症予防、心理的健康に関する教育などが段階的に行われ、心理士や外部専門家が授業に積極的に関与する仕組みが整っています。ケーススタディ:学校と保険制度の連携• バイエルン州では、性教育において「自己決定権と身体の尊重」を中心に据えた教材が用いられています。• ニーダーザクセン州の教育文化省は、学校におけるメンタルヘルスの予防プログラムを先駆的に開始し専門家が個別に生徒に寄り添う機会があります。また、職場を対象とした健康教育「企業内健康増進(Betriebliche Gesundheitsförderung)」も、医療保険制度により支援されており、成人後の健康リテラシー向上にも制度的支援が継続されています。 はじめに3予防医療と健康教育の制度の比較と課題

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