THE NEWZ Vol.29 日本語
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介状なしで直接専門医にかかることが一般的な国から来た留学生にとっては、このようなプロセスが複雑に感じられ、戸惑いを覚えることも少なくありません。アルバータ大学の調査によると、対象の留学生の約 60%がカナダの医療制度について「まったく知識がない」または「あまり知識がない」と認識していることが明らかになっています。また、同じ調査によって、カナダの留学生にとっては、言語の壁や文化的な違いではなく、カナダ独自の医療制度の仕組み自体が利用にあたって最も大きな障壁となっていることがわかっています。これらの調査結果からも、制度の複雑さやそれに対する情報提供や支援体制の不足が課題であることがわかります。また、制度の理解だけではなく、実際の加入のための手続きにも複雑な面があることも事実です。先ほどもご紹介したように、ブリティッシュコロンビア州では公的保険(MSP)に留学生も加入できる制度が整っていますが、加入には制限があり、カナダに入国してから 3 か月経たないと加入することができません。そのため、それまでの期間は民間の保険に各自で加入しておく必要があります。私自身、昨年カナダに渡航した際、そのような情報を自分で全て調べて手続きを行わなければならず、MSP への加入が完了するまでとても不安だった記憶があります。オリエンテーションなどで大学からの案内はあったものの、内容は比較的簡略的なもので、同じ留学生の友達とも情報共有をしながら手続きを進めました。るため、日本の医療保険制度は外国人留学生にとって必ずしもなじみのあるものではありません。そして、そのような制度の違いは、留学生の医療保険に対する価値観や考え方にも少なからず影響を与えます。その結果、日本の医療保険制度の仕組みやメリットの認識が不十分になり、留学生の利用の妨げになっている可能性があります。また、留学生が日本の医療制度を活用するにあたって、言語の壁も大きな不安要素の一つです。多くの外国人留学生にとって、日本語で医療制度に関する情報を入手し、理解することは容易なことではありません。実際に、文献レビューによる調査では、日本に住む外国人は母国とは異なる文化の中で言語による障壁を感じており、十分な情報が得られていない状況にあることがわかっています。留学生にとって、言語の壁は日本の医療保険制度や医療サービスなどの情報アクセスへを妨げる要因となっています。また、医療機関を実際に受診する際にあたっても、言語の壁は無視できない問題の一つです。出入国在留管理庁が実施した「令和 4 年度 在留外国人に対する基礎調査」によると、外国人が日本の病院で困ったこととして、症状を正確に伝えられなかったことや、言葉が通じる病院がどこにあるのかわからなかったことなどが挙げられており、医療機関を受診する上での言語面の不安が明らかになっています。このように、日本で生活する外国人にとって言語による障壁は大きく、それが彼らの保険行動に大きな影響を及ぼしている可能性があります。このように、制度の理解不足と言語による不安は、日本で留学生が医療サービスを利用する上で大きな障壁となり得ます。留学生の母国語での十分な情報提供や教育プログラムの実施など、日本の医療システムの理解を促すための取り組みが今後ますます重要になると考えられます。カナダに滞在する外国人留学生にとって、医療保険制度を活用する上での最大の障壁は、制度そのものを理解することの難しさにあると考えられます。カナダで医療サービスを利用する場合は、まずファミリードクターの診察を受けた上で、その後必要に応じて専門医へ紹介されるという段階的なプロセスが一般的です。しかし、紹5. カナダの留学生の医療保険制度の課題9

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