官 於淇1. はじめに2. 日本の事情一橋大学(日本)およびメンタルヘルスへの理解を促進する普及啓発イベントを行うなど、関心が高まっています。メンタルクリニックの院長を務め、産業医としてカウンセリング業務に従事している尾林誉史先生は GO100 のインタビューで、日本におけるメンタルヘルスの現状課題とこれからの展望について次のように語っています。まず、日本にはメンタルヘルスに対する根強い偏見が文化に内在しており、「カウンセリングを受けている」ということがネガティブにとらえられてしまう傾向があります。その原因は主に 2 つあると考えられ、一つ目は日本の国民皆保険制度においてカウンセリングには保険が適用されないために、全額を自費で負担してまでカウンセラーに診てもらうという発想に至りにくいというものです。二つ目は日本の精神医療は長らく「統合失調症」のような長期入院を必要とする重い精神疾患を重視して、うつ病や睡眠障害といった統合失調症と比較すると症状の軽い疾患は軽視される傾向にあるというものです。このような現状の中で、尾林先生は企業が従業員のメンタルヘルス対策に取り組む重要性を示唆しています。企業は従業員が一定の割合で心の病を発症することを分かっていても、その場合の損失までは現実的に考慮できていないケースが多いため、対策を立てられるように、予想できる経済的・人的な損失を数値化して企業に伝えるべきだといいます。 また、健康長寿産業連合会と順天堂大学の共同研究(2024)は、日本企業における従業員のライフスタイル要因(睡眠、運動、喫煙など)と、メンタルヘルス関連の欠勤率および離職率の関連を検討しています。具体的には、睡眠によって十分休養がとれている者の割合が 1%増加すると、離職率とメンタルヘルス関連の欠勤率が有意に減少、定期的な運動習慣のある者の割合が 1%増加すると、メンタルヘルス関連の欠勤率が有意に減少することが明らかにされました。この研究成果をもとに、企業には従業員の健康的なライフスタイルを支援するプログラムの積極的な導入が期待されています。実例を一つ挙げると、日本の大企業である三菱商事はカウンセリング窓口やメンタルヘルスサポートデスクを設け、公認心理士・臨床心理士を置き、社内診療所にも専門の医師を置いて、従業員のメンタルヘルス対策に重点的に取り組んでいます。メンタルヘルスとは体の健康ではなく心の健康状態を意味しています。例えば、体が健康な時は力が湧いてくるといった感覚があるように、心が健康な時は穏やかな気持ちになったりやる気が湧いてきたりといった感覚があります。これとは反対に、気持ちが沈んだり落ち込んだりすることは誰にでもありますが、こうしたストレスの積み重ねがきっかけとなって心の病気にかかる可能性は誰にでもあります。体の病気とは違って、心の病気は周囲の人に気づかれにくく、本人も伝えづらいため、回復に時間がかかってしまうこともあります。このようなメンタルヘルスに関する問題意識は近年世界中で高まってきており、1992 年に世界精神保健連盟が定めた「世界メンタルヘルスデー」(10 月 10 日)は、WHO の協賛もあって正式な国際記念日とされています。最新 2024 年のテーマは「職場におけるメンタルヘルス」であり、世界人口の 60%が就労している現状において、職場におけるメンタルヘルスを守る重要性が訴えられています。hopehighschool.co.uk/news/2024-10-07-world-mental-health-day-2024)日本でも NPO 法人シルバーリボンジャパンが「世界メンタルヘルスデー」に合わせて、脳や心に起因する疾患13( 世 界 メ ン タ ル ヘ ル ス デ ー の 広 告:https://働く人々のメンタルヘルスと企業および社会の取り組み―日本と中国の事情を比較して-
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