期的に健康マネジメントの講義を行うといった健康支援を社内で導入していくことです。これらの取り組みによってネットイースのような事例が発生するリスクを減少させていくことが、これからの大きな課題となるでしょう。↑ EAP のイメージ(https://tse2.mm.bing.net/th/id/OIP.QSXP11y3W9QcEFERKN7UrwHaEO?rs=1&pid=ImgDetMain&o=7&rm=3) 以上で見てきたように、メンタルヘルスに関する両国の事情を比較して分かったのは、その重要性が社会的に認知されていないために、心に悩みを抱える人々への医療体制やアクセスの構築が十分ではないという共通の問題点でした。特に職場におけるメンタルヘルスは、世界メンタルヘルスデーのテーマとして掲げられているように現代社会において重要性が高いことも分かりました。これらのことを理解し、EAP の導入や社内体制の構築といった取り組みを積極的に進めていくことが現代の企業には求められています。 NPO 法人シルバーリボンジャパンのロゴ(https://www.silverribbon.jp/)中国企業のメンタルヘルスへの取り組みにはどのようなものがあるのでしょうか? CRI の記事 (2023/9/20) によると、中国の大手 IT 企業「網易(ネットイース)」の従業員が仕事上の手違いで会社の人事担当者に脅迫され、自殺したという事例がありました。この件は「会社は社員のメンタルヘルスにどのように責任を負うべきか」といった議論を巻き起こしました。また、ネットイースによると、この従業員は “ 鬱 “ の傾向にあり、亡くなる前の数週間は不眠に苦しんでいたことを自ら明かしていたようです。しかし、心の病は職業病の範疇に組み入れられておらず、この事例が労災に該当するかどうかの明確な判断基準はありませんでした。また、中国の金融業における、管理職の職場ストレスに関する李(2015)の研究によると、企業の従業員は、業務量の多さや人間関係といった職業ストレス、仕事が忙しく家庭に配慮する余裕がないといった個人ストレス、改革開放や社会体制の変化などに起因する社会ストレスを抱えることがあります。これらの異なる三つのストレスは適度であれば個人の原動力につながることがあるものの、過度になると心の健康に悪影響を及ぼしてしまいます。中国の企業におけるメンタルヘルス対策と今後のあり方について筆者は(1)EAP プログラムと(2)自社体制づくりの二つを挙げています。まず、(1)EAP プログラムとは 1940 年代にアメリカではじめられた、外部機構による従業員の支援プログラムであり、現在では最もよく用いられる方法です。筆者によると、中国における EAP の発展は、企業や社会の観念形成の遅れやメンタルヘルスの重要性が企業に浸透していないこと、EAP が発展し始めたのが 2005 年頃と比較的遅かったことなどが原因で難しい状況であるといいます。しかし、中国労働者用の「各職場ストレスチェック表」の確立や従業員に向けたストレスマネジメント教育、心理的支援を提供する専門家の育成などによって、将来的には中国独自の EAP 機構を発展させることが期待されています。次に、(2)自社体制づくりとは、従業員のストレスへの対策として産業保健スタッフの拡充や、定 4. 両国の比較3. 中国の事情14
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