THE NEWZ Vol.29 日本語
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必要な支援が整備された環境で学び、成長し、それぞれの個性を活かして活躍していける社会の実現に向けて、ゲノム医療が科学と支援をつなぐ架け橋となることに期待が寄せられます。注釈一覧*1 双子研究遺伝と環境の影響を区別するため、一卵性・二卵性の双子を比較して行う研究手法*2 家系調査ある特性(疾患や行動傾向など)が家族内にどのように分布しているかを調べる調査法*3 新生児スクリーニング出生直後に実施される検査で、特定の先天性疾患の早期発見を目的とする*4  個別指導計画(IEP)子どもの発達状況や特性に応じた教育支援を計画・実施するための個別計画書*5 補助診断主な診断だけでは判断が難しい場合に、追加的な情報(例:遺伝子情報)を用いて判断を補完する方法6. ゲノム医療がつなぐ未来の支援ゲノム医療は、単に発達障害の原因を明らかにするための17技術にとどまらず、見えにくい困難を可視化し、個々に適した支援へとつなげるための社会的ツールとしての役割を持ち始めています。例えば、これまで、行動や特性が十分に理解されず、努力が足りない、意欲がない、扱いにくいと誤解されやすかった子どもたちが、脳の特性や遺伝的背景に基づく理解によって、より適切なサポートを受けられるようになる可能性があります。カナダと日本は、それぞれ異なる制度や文化的背景を持っていますが、発達障害をめぐるゲノム医療の活用という観点では、相互に学び合うことができる分野が多く存在します。日本がカナダに学ぶべき点としては、教育・福祉・医療の三分野にまたがる横断的な情報共有と倫理的枠組みの整備の 2 つが挙げられます。これらの課題は日本に限らず国際的にも求められる重要な課題であると考えられます。今後は、国際的なデータ共有や多国間の共同研究を通じて発達障害に特化したゲノム医療モデルの構築が求められていくでしょう。そして、発達障害を持つ子どもたちが委員会や学校に自動的に共有されるわけではなく、保護者が自ら申告し、改めて教育的評価を受ける必要があります。一部の報告では、発達障害に対するスティグマ(社会的偏見)や、他の子どもと同じように教育を受けさせたいという保護者の思いが背景となり、診断結果を学校に伝えないケースがあることが指摘されています。その結果、必要な支援が受けられない状況も珍しくありません。さらに、IEP の立案や運用が学校現場ごとに異なるため、地域間の支援格差が生じやすい点も問題視されています。このように、カナダが情報連携と包括的支援モデルに重きを置く一方で、日本は制度の縦割りと個別対応が色濃く残っています。日本においても、ゲノム医療によって得られた診断的知見を、教育や福祉に円滑に橋渡しできる連携体制の整備とそれを支える制度設計の見直しが今後求められていくと考えられます。

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