THE NEWZ Vol.29 日本語
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ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)奥ノ谷 莉里1. はじめに2. 日本の留学生の医療保険制度3. カナダの留学生の医療保険制度留学生は Medical Services Plan (MSP) という公的保険に加入することができます。MSP に加入すると、病院での診察や治療費が無料となりますが、歯科や眼科、処方薬などはサービスの対象外です。一方でオンタリオ州では、州内の大学に通う留学生は University Health Insurance Plan (UHIP) への加入が義務付けられています。ブリティッシュコロンビア州では、留学生もカナダ国民や他の在住者と同じ公的保険に加入するのに対し、オンタリオ州では大学留学生専用の保険が用意されているということになります。このように、州によって保険制度や内容が異なる点がカナダの保険制度の特徴であり、同時にその仕組みの複雑さにもつながっています。また、カナダではファミリードクター(日本におけるかかりつけ医)制度が主流であり、基本的にファミリードクターによって診察や定期検診が行われます。専門医の診察が必要と判断された場合には、ファミリードクターからの紹介状によって総合病院や専門の医療機関にかかる仕組みになっています。ファミリードクターを持たない留学生のようなカナダ在住者はウォークインクリニックを利用することができますが、一般的に待ち時間が長いことが問題となっています。 日本に滞在する外国人留学生が日本の医療保険制度を活用する上で大きな障壁となり得るのが、制度に関する十分な理解の欠如と、言語の壁によるコミュニケーション上の困難です。先ほども触れたように、日本は国民皆保険制度を採用しており、誰もが比較的小さな自己負担で質の高い医療サービスを利用することができます。しかし、留学生の出身国では必ずしもそのような制度が整っているとは限りません。例えば、イギリスやフランスでは公的医療保険制度が適用されていますが、日本のように患者が受診する医療機関を自由に選択できるわけではなく、どのような場合でもかかりつけ医の診療を最初に受けることが基本になっています。また、アメリカでは日本のようにフリーアクセス制度を採用しているものの、現役世代への医療保険は民間が中心であるため、医療費の自己負担が日本に比べるととても大きくなる場合があります。このように、医療制度の仕組みや考え方は国によって大きく異な 今回から The NewZ のレポート作成に参加させていただく奥ノ谷莉里です。現在カナダのブリティッシュコロンビア大学で心理学を学んでいます。よろしくお願いいたします。カナダで留学生活を送る中で、現地の医療制度について自分自身で一から学び、加入に必要な手続きを進めなければならず、不安を感じた経験がありました。また、その経験を通じて、日本の留学生の保険制度はどのような仕組みになっているのか、そしてそこにはどのような課題があるのかという疑問を持ちました。そこで、今回の記事では、日本とカナダそれぞれの留学生の医療保険制度について取り上げたいと思います。両国の制度の特徴や課題について扱ったうえで、それぞれの国で留学生がより安全で快適な生活を送るためにはどのような取り組みが必要なのかを考えていきたいと思います。日本では、3 か月以上滞在する外国人には国民健康保険への加入が義務付けられており、加入手続きは住んでいる地域の市区町村の役所で住民登録してから行うことができます。保険料の金額は前年中の所得に基づいて計算され、所得が一定基準以下の場合は減額措置が適用される制度もあります。医療機関を受診して治療を受ける際に保険証を提示することで、医療費の自己負担は原則として 30%に抑えられます。ただし、健康診断や予防接種、歯列矯正や美容整形、妊娠・出産は保険の適用外となり、これらにかかる医療費は全額自己負担となります。また、国民健康保険ではカバーされない事故やトラブル(他者に対する損害賠償事故や盗難被害など)については、傷害保険や個人賠償責任保険などの民間の保険への加入が推奨されています。そして、日本の多くの大学や大学院は、授業中や通学中等のケガが補償対象となる、学生教育研究社災害傷害保険(学研災)を採用しています。カナダにおける留学生の医療保険制度は、州によって大きく異なっています。例えば、私が現在滞在しているブリティッシュコロンビア州では、半年以上滞在予定の4. 日本の留学生の医療保険制度の課題 8日本とカナダにおける留学生の医療保険制度

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