THE NEWZ Vol.30 日本語
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第 1 章:医療用大麻とは何かー基礎知識と治療効果の科学的根拠 第 2 章:世界における医療用大麻の法的規制と制度化の現状3テキサス州立大学タイラー校、アメリカ渡辺 雄大在を意識する機会は少なくありませんでした。キャンパスの周辺を歩けば独特の香りが漂い、学生同士の会話にその話題が出ることもありました。当初は娯楽目的での利用が大半だと考えていましたが、実際には慢性痛や睡眠障害の緩和といった医療的な理由で使用している人もいることを知り、大麻の持つ多面的な側面に関心を持つようになりました。日本では大麻は厳しく規制されており、多くの人にとっては遠い存在ですが、世界の医療現場ではその有効性と安全性についての研究が進められています。 医療用大麻とは、大麻草に含まれるカンナビノイド(代表的なものは精神作用を持つ THC と、陶酔を伴わない CBD)を治療目的で使用することを指します。これらは体内のエンド・カンナビノイド・システム(ECS)と作用し、痛みや筋肉の痙縮、悪心などを緩和する可能性があります。海外では、多発性硬化症や難治性てんかんの治療に Sativex( サティベックス ) などの医薬品が承認されており、最近の研究では、うつ病患者に対する 18 週間の医療用大麻治療で症状の有意な改善が報告されています。 ただし、その効果は疾患や製剤の種類によって異なり、依存 医療用大麻の制度化は国によって異なりますが、アメリカ、イギリス、ドイツ、スペイン、ポルトガル、フィンランド、イスラエルなどでは、医師の診断と処方に基づき、特定の疾患に限って使用が合法化されています。これらの国々では、製品の品質や流通を政府が厳格に管理しており、不純物の混入や成分の過剰による健康被害を未然に防いでいます。さらに、カナダのように包装や広告の規制を強化している国もあります。たとえば、子どもが簡単に開けられない容器の使用、パッケージの無地化、義務的な健康警告の表示、THC(テトラヒドロカンナビノール)含有量の明示、広告の全面禁止などが導入されており、若年層への不必要な訴求や不適切な利用の抑制につながっています。また、エディブル(食用)製品については、1 包装あたり THC を 10mg までに制限することで、過量摂取や依存のリスクを低減しています。 ここで疑問が生じます。「医療用であっても依存性は本当にないのか?」「使用者によっては二次災害が起きるのではないか?」という懸念です。結論としては、通常の合法市場で流通する製品であっても、高濃度の THC を含むものや大量に摂取しアメリカの大学に留学していた頃、日常生活の中で大麻の存リスクや精神症状の悪化といった副作用の懸念もあります。そのため、世界的な医療研究は「効果とリスクのバランス」を見極める段階にあり、日本においても成分や用量に基づく科学的議論が求められています。本レポートでは、この “ 遠くて近い薬 ” について、基礎知識から治療効果の科学的根拠までを整理し、今後の可能性と課題を探っていきます。た場合、特に若年者や精神疾患の既往がある人においては、一時的な幻覚や妄想などの精神病様の症状が発生する可能性があります。こうした症状が原因でパニックを起こしたり、暴走行為や事故などの二次災害につながるおそれも否定できません。そのため、各国では効力規制や製品形態の制限を設け、過剰摂取を防ぐ工夫を制度的に行っています。また、車の運転や高所作業中の使用を禁じたり、初めて使う場合や久しぶりに使用する場合には低用量から始めること、アルコールや他の薬物との併用を避けることなど、個人の行動レベルでもリスク低減に向けた注意喚起が行われています。万が一、強い幻覚や被害妄想、自己や他人への危害の恐れがある場合には、迅速に安全を確保し、医療機関での適切な対応を受けることが推奨されています。 このように、医療用大麻を制度化している各国では、「患者の必要な治療へのアクセス」と「依存や急性精神症状のリスク抑制」の両立を目指し、規制、監視、教育を組み合わせた多層的な取り組みがなされています。医療用大麻の治療効果と法的規制の国際比較:日本と諸外国における現状と課題

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