THE NEWZ Vol.30 日本語
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第 3 章:日本における医療用大麻の規制と制度的課題 第 4 章:大麻の依存度・危険性と覚せい剤・たばことの違い 第 5 章:医療用大麻をめぐる日本の今後―政策提言と実現に向けた課題4 日本では、1948 年に制定された大麻取締法により、大麻草の所持、使用、栽培、輸入などが厳しく規制されてきました。特に医療目的であっても大麻の使用は認められておらず、長年にわたって厳格な制度が維持されてきました。近年、こうした流れに変化が見られました。2023 年には、大麻由来の医薬品について、治験や薬事承認を経た上で限定的に使用できるようにする法改正が成立しました。これにより、特定の難病患者に対して新たな治療選択肢が開かれる可能性が期待されています。 しかしながら、制度には依然として多くの課題が残されています。たとえば、CBD 製品に含まれる THC に対する規制は非常に厳格であり、市場や流通に大きな影響を与える可能性があ 大麻は一般的に「依存性が低い」とされますが、決して無害というわけではありません。国際的な研究によれば、大麻の依存率は使用者の 9 〜 20%とされており、身体的な禁断症状は軽度であるものの、心理的依存や習慣化のリスクは存在します。一方、覚せい剤は非常に強い依存性を持ち、日本国内の薬物依存症の大半を占めています。再犯率も非常に高く、使用によって幻覚、妄想、暴力行動を伴うなど、精神的・身体的ダメージは深刻です。 比較対象として重要なのがたばこ(ニコチン)です。たばこは合法で広く流通していますが、依存性の高さでは覚せい剤やヘロインに次ぐレベルとも言われています。ニコチンは強い身体的依存を引き起こし、禁煙の難しさにもつながっています。また、肺がんや心疾患のリスクも高く、慢性的な健康被害が顕著です。 危険性の種類にも違いがあります。覚せい剤は短期間で精神に深刻な影響を及ぼす一方、大麻は長期的に使用した場合に、記憶力や注意力の低下、若年層への発達影響が懸念されます。タバコは依存症だけでなく、受動喫煙など周囲への影響も問題 日本で医療用大麻を適切に普及させるためには、慎重かつ厳格な制度設計と、根強い社会的な誤解を丁寧に解いていく努力が必要です。あくまで医療目的に限った使用であり、決して娯楽目的の容認や乱用を許すものではありません。まず、制度面では、病院内のみでの使用を原則とし、大麻由来の医薬品は医師の処方と監督のもとで、厳重に管理される必要があります。たとえば、患者が大麻製剤を病院外へ持ち出すことを原則禁止とすることで、流通や管理のリスクを最小限に抑えることができます。このような厳格な運用ルールを明確に設けることが、国民の安心感につながります。また、医療用大麻を必要とする患者の多くは、がん、難治性てんかん、末期症状などを抱えた重篤なケースが多く、高齢者がその中心を占めることも少なくありません。そうした患者層やその家族に対しては、「大麻は危険な薬物」という固定観念を乗り越え、医療としての有効性を理解してもらうための説明とります。また、法改正により新たに「使用罪」が導入され、大麻の使用そのものが処罰の対象となりました。これは、依存症への支援や治療といった視点よりも、厳罰的な姿勢が色濃く残っていることを示しています。 さらに、日本社会においては大麻に対する拒絶感が非常に強い傾向があります。多くの人が「一度使えば人生が終わる」といった極端なイメージを抱いており、著名人の報道などでも強い社会的制裁が行われることが一般的です。このような社会文化的な背景も、医療用大麻の導入を阻む一因となっています。今後は、制度的な整備だけでなく、科学的根拠に基づいた啓発や教育、依存症支援の充実を通じて、偏見のない冷静な議論が求められます。視されています。 このように、大麻・覚せい剤・たばこはいずれも依存性や健康リスクを伴いますが、その性質や社会的受容度には大きな違いがあります。特に日本では、大麻に対する社会的拒絶感が極めて強く、覚せい剤と同列に扱われる傾向がある一方、たばこに対する規制や教育は比較的緩やかです。今後は、各物質の科学的なリスク評価に基づいたバランスの取れた啓発と制度設計が求められます。対話が欠かせません。特に、日本では大麻に対して非常に強い社会的拒否感があります。これは、違法薬物としての大麻と、科学的根拠に基づいた医薬品としての大麻を同一視することによって生じています。したがって、「医療用大麻=犯罪」ではなく、「医師の判断により投与される医薬品のひとつである」という認識を社会全体で共有していくことが求められます。今後、医療用大麻が必要な患者に適切に届くよう、制度と社会の両側面での準備と理解促進が必要です。そのためには、法的な厳格性と医療現場での透明な説明責任、そして社会に対する継続的な情報発信が欠かせません。

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