THE NEWZ Vol.30 日本語
9/22

3. 発展実態4. 成長要因8 まず、アジアにおける医療観光の発展要因の一つとして「医療費の安さ」があります。表 4 を見ると、タイが最も先行していて、医療観光客の受け入れ数でも他国を大きくリードしています。さらに、5 カ国間で医療観光の需要には大きな差があって、マレーシアやシンガポール、インドが、韓国を大きく上回って、医療観光客を受け入れていることが分かります。しかし、表2と表 4 を比較してみると、表 4 における各国の医療観光客数が表2より大きな数値になっています。 これらの国における医療サービスは、先進国での留学や研修、勤務経験を持つ医療専門人材や良質な医療施設によって支えられています。つまり、単に医療費が安いだけでなく医療技術やサービス全体の質も非常に高いのです。実際、これらの国の医療コストは多くの先進国と比較するととても安いですが、他の途上国と比較すると高いのが現状です。つまり、これらの国の国際的な医療観光競争力は手頃な医療費と国際水準の医療サービスの “ 両方 ” によるものだと思います。こうした医療環境は、以下の 2 つの層の患者さんにとても魅力的です。1) 質の高い医療サービスを求める周辺諸国の患者。2) 医療費を抑えたい先進国の低所得層や保険未加入者。 さらに、これらの国々では、政府と民間が協力したことで、医療観光産業の発展がされています。たとえば、「JIS(Joint Commission International)」のような国際関連機関が、医療サービスの品質評価や認証を行っていて、これにより信頼性の高い医療提供体制が構築されています。また、これらの国々では、自国の自然や文化の特徴などを生かして、それぞれの国に合った医療観光の特色と発展目標を設定しています。例えば、1) タイは、「アジアの SPA 首都」を目指すとともに、性転換手術などの専門分野で世界トップクラスの医療技術と豊富な実績を誇ります。2) シンガポールとインドは、それぞれ東南アジアと南アジアにおける高度医療サービスの中心地を目指し、がん治療、心臓外科、再生医療などで国際的評価を高めています。表 4 アジア 5 カ国のインバウンド医療観光客規模の推移(単位:人) この背景には、以下のような要因が考えられます。1) アジアでは医療費が比較的安価でありながら、歯科医療などの一般的な医療技術の水準が高いこと。2) 欧州東部など他地域と異なり、医療観光の定義が広く設定されていること。 例えば、欧米の先進国では外科手術などの医療行為を行う旅行者のみを「医療観光客」として計算しています。しかし、アジア諸国ではそれとは異なって美容や療養目的の旅行者も医療観光客としてカウントされています。さらに、タイをはじめとする一部の国々では、「患者1人」ではなく「受診回数」ベースで計算されているケースもあります。そのため、アジア諸国では国際医療観光客数が多く計算されていることがあります。表 5 アジア 5 カ国における医療観光のプロモーション推進機関 今回は、近年世界的に注目を集めている国際医療観光の動向について調べ、アジアにおける国際医療観光の実態とその成長要因について考察しました。日本政府は 2010 年に発表した「新成長戦略」で「国際医療交流」を目指しました。しかし、それから 10 年以上が経過した現在においても日本の医療観光産業は大きな成長をしているとは言えません。東日本大震災など多くの自然災害の影響もあったとはいえ、他国の成功事例を参考にすれば日本の医療観光が発展していく上で、多くの課題が残されていることがわかります。たとえば、1) 国際医療観光業務を担うことができる多様な専門人材の育成と確保。2) 医療関係者や観光業界を含む社会全体での医療観光の必要性と可能性に対する認識の共有。このような取り組みが今後必要となってくると思います。

元のページ  ../index.html#9

このブックを見る