薬物依存を精神的な疾患とみなしていることから、患者の思考や感情に働きかけ、行動の改善を支援する心理療法を提供しています。その中でも広く知られているのが CBT と呼ばれる認知行動療法であり、患者の考え方や行動の変化を促すことを目的とした方法です。これにより、抑うつ、不安、心的外傷後ストレス障害(PTSD)といった薬物を使用する理由となった根本的な問題の解決を促すことができます。また、イギリスでは公的医療制度の一環としてこれらを無料で受けることができます。 さらに、「デトックス」と呼ばれる解毒は、体内から薬物を安全かつ管理された方法で排出することができ、政府はこのデトックス課程を通じて患者を支援し、作業療法、心理療法、美術療法などへの参加を奨励しています。 イギリスでは薬物依存症に対してこのような様々な治療法を提供することにより、患者に対して必要なサポートが受けられる体制を整えています。 しかし、薬物療法に対する社会的偏見や、薬物依存症治療薬の承認・利用が欧米ほど進んでいないことなどから、薬物依存症者に対する支援が限定的な傾向にあります。また、検挙された薬物依存症者が服役中に薬物を一時的に断つことはあっても、上記のような理由や、依存症の根本的な原因を解決することは極めて困難な状況になっています。 イギリス政府および NHS は、薬物依存に対して様々な治療法を提供しており、個人の依存度や生活環境に合わせた適切な支援を行っています。依存症治療の初回面談では、患者の薬物使用歴、仕事、家庭環境、住居状況などについて尋ねることで、最適な治療法の選択を補助しています。これにより、薬物使用者だけでなく、その介護者や家族を支援する地域のサポート団体とも連携した支援体制を組み入れることができます。治療の選択肢として、イギリスでは主に薬物療法、セラピストとのカウンセリング、デトックスなどが含まれています。 薬物依存治療の最も主要な方法の一つとして、メサドンやブプレノルフィンといった処方薬の使用があります。これらの薬は違法薬物への渇望や禁断症状を軽減し、ヘロインなどの特定の薬物の効果を遮断する作用があります。ただし、一部の薬は依存性を持つものもあるため、医師の適切な診断と服薬量の規制が必要なものとなっています。 また、治療プログラムにおいては、セラピストのカウンセリングなどの心理療法も重要な要素となっています。NHS は 日本政府はイギリス政府とは異なる薬物依存に対する見解を持っており、その姿勢は国の政策である「第四次薬物乱用防止五か年戦略」に示されています。この戦略では、特に若者、家庭、地域社会を対象とする教育を通じた早期予防や、乱用の疑いに対する早期発見・通報の重要性が強調されています。特に、日本では薬物使用に対し厳格な法的処罰を設けており、政府の「ゼロ・トレランス方式(ある特定の違反や不正行為に対して、一切の妥協や例外を認めず、必ず処罰するという方針)」が反映されています。このような見解は、依存症治療のあり方にも影響を与えています。 日本政府の「ゼロ・トレランス方式」によって、薬物使用者は逮捕、起訴、さらには社会的排除へとつながりやすい状況にあります。イギリスのように国からの支援は限られていることから、地域密着型の団体による支援センターの発足につながっています。その代表的な団体として、DARC(Drug Addiction Rehabilitation Centre)があります。 DARC は、薬物依存から回復する人々が共同生活や相互の責任を通じて支えあう環境を提供する組織です。薬物依存によって損なわれた身体的、精神的、社会的機能の回復を支援するだけでなく、薬物中毒からの回復に成功した事例を広める活動も行っており、依存を「道徳的な失敗」ではなく「治療可能な状態」として社会が捉え直すことを目的としています。 イギリスにおける薬物依存への医療的アプローチ 日本における薬物依存の見解 日本における薬物依存への医療的アプローチ12
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