THE NEWZ Vol.31 日本語
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6    服用してしまう事案が増えており、社会問題として注目されています。近年の調査によれば、10 代の若者による市販薬の過量摂取での救急搬送は増加傾向にあり、その多くが意図的なオーバードーズであると報告されています。同研究では、乱用の中心となっているのは鎮痛解熱薬や咳止め薬といった家庭にある薬剤であり、複数の薬を同時に服用するケースや、SNS 上の情報をもとに服薬している事例も多いことが指摘されています。薬局で簡単に入手できることから、若者が 、身近で安全なもの、という誤った認識を抱きやすく、それが乱用増加の一因になっていると考えられます。 また、その背景には、社会的要因と結びついた心の問題があります。人間関係のストレスを始め、学業での競争、SNSによる比較といった社会的要因があり、特に中高生は悩みを打ち明けられず孤立しやすい状況にあります。さらに、コロナ禍での外出制限やオンライン授業がこうした孤立感をさらに強め、薬物に頼る傾向を後押ししたとも言われています。こうした状況を受け、厚生労働省は薬剤師や登録販売者にゲートキーパーとして乱用防止の役割を担うよう求めています。また、精神的ストレスや孤立感に対応するため、相談窓口や支援体制を整備していますが、十分に解決できていないのが現状です。 表 1 からも分かるように、日本の薬物使用率は他国と比べて非常に低い水準にあります。例えば、大麻の生涯経験率はわずか 1.4%であり、フランス(40.9%)、アメリカ(44.2%)と比べると圧倒的に低いことがわかります。日本は違法薬物に対する取り組みが厳格で、大麻や覚醒剤の使用率は国際的に見ても低水準に抑えられています。この背景には、1951 年に制定された覚醒剤取締法や大麻取締法など厳しい薬物関連法に加え、警察や入国管理局による水際対策の強化が徹底されていることがあります。 また、日本ではみなさんも一度は聞いたことがある「ダメ。ゼッタイ」普及運動に代表される薬物使用反対への啓発活動が活発に行われています。これらの活動が、薬物使用者に対しての社会的スティグマが抑止力として機能していると考えられます。 表面的には、日本での薬物使用は抑制できているように見えます。しかし、薬物問題は違法薬物だけに限られるものではありません。違法薬物への取り締まりが厳しい分 、禁止されていない薬だから安心、という誤った認識が若者に広がっています。その結果、冒頭でも触れたような身近に存在する市販薬の不適切使用といった、合法的な薬物に関連する問題が大きな課題となっています。先ほど取り上げた記事にもあったように、特に中高生の間で市販の風邪薬や鎮痛薬を大量に 表 1: 主要な国の薬物別生涯経験率2. 日本の薬物問題

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