THE NEWZ Vol.31 日本語
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なる政策です。「ダメ。ゼッタイ」普及運動をはじめとして、薬物に対して強い反対が当たり前とされる日本社会から見れば、極めて対照的で新しいアプローチだと言えます。ただし、個人の自由を尊重する反面、薬物依存者が街中でもよく見られることを考えると、治安や地域社会に直接的な影響を及ぼしていることも明らかです。特に、バンクーバーのダウンタウン・イーストサイドでは、薬物依存者が路上に倒れ込む光景が日常化しており、その様子からゾンビタウンと呼ばれる地域が存在します。これは、カナダにおける薬物依存の深刻さを物語っていると言えるでしょう。こうした両国の違いを整理すると、以下の表 3 に示すようになります。表 3:日本とカナダの薬物政策比較出典:あらかわタイムズ「カナダの街に広がる薬物問題と日本の違法薬物政策の重要性」(2025 年 6 月 29 日) この表からも明らかなように、薬物使用を厳格に規制することで治安を維持する日本と、薬物使用を社会の一部として受け入れ、リスクを最小化するカナダは対照的な立場にあります。それぞれの政策にはメリットとデメリットがあり、価値観の違いが色濃く反映されていると言えるでしょう。能であることを理解する必要があります。そう考えると、排除することから、薬物を受け入れ安全な使用を促すに転換したカナダの政策は社会状況を見て先を見越したものであるようにも思いました。一見薬物問題に対しては日本が安全、カナダが危険と思われがちです。しかし、将来的に日本でも薬物使用者を取り締まりきれなくなる未来もあるかもしれないと思うと、日本もカナダから学ぶものがあるのではと感じました。 薬物問題解決のゴールは、薬物使用自体を減らすことなのか、 それとも薬物による被害を無くすことなのか、どちらに定義を置くかで方針も変わってきます。そして、その 2 つの立場を対照的に象徴しているのが日本とカナダです。そう考えると、日本とカナダの今後の薬物政策を考える上で、互いに学び合う余地は大きく、協力し合って発展していけることが期待されます。 一日本とカナダの薬物問題を比較すると、それぞれの社会的状況に合わせた政策方針であることがわかり、大きな違いが見られます。 日本では大麻を含む違法薬物に対して厳しい規制と厳罰が徹底されており、初犯であっても有罪判決を受けるのが一般的です。そのため薬物依存者が表立って目に見える形で存在することは少なく、市内の治安は比較的安全に保たれています。しかし一方で、合法に入手できる薬物への危険性は十分に理解されておらず、依存や乱用の実態が水面下に隠されているという問題があります。特に、若者による市販薬や処方薬の乱用については、十分な把握や支援が行き届いておらず、近年深刻化しており日本における大きな課題と言えるでしょう。図 X:バンクーバー・ダウンタウンイーストサイドにおけるフェンタニル危機の様子出 典:The Telegraph, “How decriminalisation made Vancouver the fentanyl capital of the world”(2024 年 7 月 9 日 , 写真:Simon Townsley) 対してカナダは、2018 年の大麻合法化をはじめ、薬物に対して比較的寛容な政策を取っています。特にハームリダクションの導入は、薬物使用を個人の自由として認めつつ、その害を最小限に抑えることを目的とした、日本とは視点が全く異 今回のレポートでは、日本とカナダにおける薬物問題を比較し、それぞれの特徴や政策的アプローチをまとめました。個人的に、長い間日本で育ってきて、薬物は絶対にダメという固定概念が染み付いていた私の中で、カナダの薬物使用は個人の自由として尊重されるべきという考え方は新しく興味深かったです。社会的・精神的な理由から薬に頼らざるを得ない人が、薬という選択肢を選べなくなった場合、自ら命を絶ってしまう可能性もあることを理解する必要性に気付かされました。そして、実際に日本でも精神的な苦痛から、違法薬物ではないから安心だと思い市販薬のオーバードーズに走ってしまう人たちが増加しています。市販薬の販売を規制したところで、孤独感等の薬物使用の背景にある根本的な問題が解決しない限りはまた違う形で薬物問題というのは続いてしまうのではないかと考えさせられました。そして、そういった根本にある精神的問題は、社会的・個人的な様々な要因が絡み合っており、社会から完璧に取り除くのはほぼ不可4. 日本とカナダの比較 5. 結論・考察8

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