THE NEWZ Vol.32 日本語
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9 第 3 章:競争から協調へ - ヘルスケア分野における日台の新関係 まとめ:台湾の事例から考えられること床現場のニーズを深く理解したスタートアップが、機動的な開発力で社会課題の解決に挑むという、台湾の活気あるエコシステムの一端を示していると言えます。ています。その象徴的な事例も複数報告されています。ロート製薬は、台湾の大手バイオ企業と提携し、両国市場での再生医療製品の共同開発を進めています。エクソーム技術を持つ台湾エクソソーム (TEC Exosome) 株式会社は、トヨタホールディングスと共同で「日本エクソソーム株式会社」を設立し、グローバル市場を目指しています。京都大学 iPS細胞研究財団も、台湾の半導体技術を応用して iPS 細胞の製造プロセス高度化を目指す動きを見せています。 これらの連携は、日本の「シーズ(基礎研究)」と台湾の「開発・製造能力」を活かしてイノベーションを加速させようとするもので、国家間の競争という側面だけでなく、協調による新たな可能性を探る動きとして注目されます。 もちろん、台湾の制度も万能ではなく、財政圧迫や労働環境など深刻な課題も抱えています。しかし、その先進的な取り組みから学ぶべき点も多くあるのではないでしょうか。 若い世代をはじめ、社会保障制度の担い手となる層にとって、支払う保険料を単なる「コスト」ではなく、より良い未来の医療を実現するための「投資」として捉え直す視点も大切になります。台湾の事例は、国民が制度設計そのものに関心を持ち、建設的な意見を発信していくことの重要性を示唆しているようです。幸い日本でも 2022 年に「医療 DX 推進本部」が設置され、全国医療情報プラットフォームの創設に向けた議論が本格化するなど、変化の兆しは見られます。 医療の未来は、すべての国民にとって重要な課題です。本レポートが、今後の医療制度のあり方を考える上での一つのきっかけとなれば幸いです。Brain Navi 社が開発した脳神経外科用ナビゲーションロボッの NHI IC カードとクラウドシステムは、医療を効率化するだ 手術支援ロボット分野でも台湾の技術は注目されています。ト「NaoTrac」は、AI を駆使した非接触・自動登録システムでサブミリ単位の高い精度を実現しています。既存のグローバル企業が中心となっている市場において、スタートアップが独自の技術で存在感を示している例と言えるでしょう。 これらのイノベーションは、豊富なデータ基盤の上で、臨 台湾の先進的な取り組みは、日本にとって脅威という側面だけではありません。両者の強みを組み合わせる「協調」の動きが、特に再生医療分野で活発化しています。 日本は iPS 細胞研究など基礎研究で世界をリードする研究実績がありますが、その成果を商業的な成功に結びつける、いわゆる「死の谷」の克服が課題とされています。承認された再生医療等製品の数は米国や韓国と比較して少なく、産業化への道のりは平坦ではありません。このギャップを埋める鍵として、医薬品開発製造を受託する CDMO の役割の重要性が指摘されています。 ここに日台連携の可能性が見られます。台湾の高品質かつ効率的とされる CDMO 能力と、日本の基礎研究力・巨大市場が結びつくことで、相互補完的なパートナーシップが生まれ 台湾の事例は、日本の医療の未来を考える上で、二つの重要な視点を提供してくれます。 第一に、統一されたデジタル基盤が持つ影響力です。台湾けでなく、国民の健康データを新たな産業創出のきっかけとなり得る、国家レベルの戦略的インフラとして機能しています。データが 21 世紀の石油に例えられるならば、台湾はその活用において先進的な取り組みを進めていると言えるでしょう。 第二に、未来を見据えた国家ビジョンとリーダーシップの重要性です。台湾の医療 DX は、中央集権的なガバナンスの下、明確なロードマップに沿ってトップダウンで推進されてきました。複雑な利害調整を乗り越え、社会全体の利益を見据えた改革を進める上での、政治のリーダーシップの重要性がうかがえます。

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