10奥ノ谷 莉里 ブリティッシュコロンビア大学(カナダ) はじめに 日本における看護師不足の現状と課題では医師だけではなく看護師の人手不足も深刻であり、現状ではむしろ後者の方がより重大な問題であることがわかりました。さらに、看護人材の不足は日本だけでなく、カナダにおいても同様の傾向が見られていて、両国が共通して抱える課題であることも明らかになりました。これを踏まえて本稿では、日本とカナダにおける看護師不足の現状を比較し、それぞれ国の看護師業界が抱える課題と改善に向けた取り組みについて考察します。 一方で、看護師の離職率そのものは、他の職種と比べて特別に高いわけではありません。厚生労働省の「令和5年雇用動向調査結果の概況」によると、2022 年度における日本企業全体の離職率は 15.4% となっています。これに対し、日本看護協会の「2023 年病院看護実態調査」では、同年度の看護職員の離職率は正規雇用者で 11.8%、新卒採用者で 10.2% と報告されています。つまり、看護師の離職率は全職種の平均よりも低い水準にあることがわかります。しかし、同時期の有効求人倍率の高さを踏まえると、新たな人材確保が困難であり、離職者の補充が追い付かないことで、結果的に人手不足が深刻化していることが考えられます。 また、日本医療労働組合連合会による「2022 年 看護職員の労働実態調査」によると、回答した看護師の 8 割が「仕事をやめたいと思いながら働いている」ことがわかっています。そして、その主な理由としては、「人手不足で仕事がきつい」ことが全体の約 6 割を占めています。つまり、人手不足が看護師一人あたりの業務負担を増大させ、労働環境の悪化を引き起こし、離職意向をさらに高めるという悪循環が生じていると言えます。 このように、日本の看護師不足は単なる人員の問題ではなく、新規人材の確保が難しい状況と、それに伴う既存人材の過重労働による悪循環による構造的な課題であると考えられます。少子高齢化や、新型コロナウイルスの感染拡大などの影響により、近年医療の需要は高まり続けています。しかし、人手不足の問題が根本的に解決されないまま、看護師一人あたりの業務量が増加し続け、結果として労働環境の悪化やそれによる人手不足を招いていることが考えられます。年 7 月の東京新聞の記事では、循環器内科における医師不足表 1:職業別有効求人倍率(パートタイムを含む常用労働者)(2023 年 9 月 1 日) 近年、日本の医療・福祉業界において、人手不足は最も深刻な課題の一つとなっています。パーソル総合研究所が公表した「労働市場の未来推計 2030」によると、2030 年までに医療・福祉分野では約 187 万人の人材が不足すると見込まれています。こうした状況は度々新聞やネットニュースなどのメディアでもたびたび取り上げられています。例えば、2025の深刻化が報じられました。しかし、こうした報道をきっかけに日本の医療人材不足について調査を進めたところ、日本 近年日本では、少子高齢化により医療の需要がますます高まる一方で、医療人材の不足が続いており、中でも看護師不足は深刻な問題となっています。厚生労働省が発表した「看護師等(看護職員)の確保を巡る状況」によると、1 人の求職者に対する求人数の割合を示す有効求人倍率は、看護師、准看護師において 2022 年に 2.2倍となっています。これは、2018 年からの 4 年間、常に 2倍以上で推移しています。一般的に、有効求人倍率が 1 倍を超える場合は、求人に対して応募が少なく人材の確保が難しい状態を意味します。したがって、看護師、准看護師では慢性的に人手が不足している状態であることがいえます。さらに、同時期の職業一般の有効求人倍率が 1.5 倍未満で推移していることを踏まえても、日本における看護師不足は特に深刻なものであることがわかります。出典:厚生労働省「看護師等(看護職員)の確保を巡る状況」日本とカナダにおける看護師不足の現状と改善への取り組み
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