THE NEWZ Vol.32 日本語
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両国の比較と改善に向けた取り組みについて11カナダにおける看護師不足の現状と課題CFNU の調査では 93%の看護師にバーンアウトの症状が見られるとされています。バーンアウトは、うつ病や不安障害などと関連していることが示されており、発症すると長期的に看護師の精神的健康に悪影響を与える可能性があります。 また、カナダの看護師不足は、新型コロナウイルスの感染拡大以前から慢性的な人手不足を抱えていたことにも起因すると考えられます。2019 年に CFNU が行った調査によると、質問に回答した看護師のうち 73%が「施設が常に定員以上で運営されている」と感じていることがわかっています。つまり、新型コロナウイルスのパンデミック以前からすでにカナダの医療体制はひっ迫しており、その状態で感染拡大を迎えたことで、病気やバーンアウトによる離職が増え、人手不足がさらに深刻化したと考えられます。 このように、カナダにおける看護師不足は、日本と同様に、単なる人員の問題にとどまらず、医療従事者の健康や職場環境の質に直結する重要な課題であると考えられます。以前から慢性的に起こっていた人手不足はパンデミックによって現在さらにひっ迫しており、看護師自身だけでなく患者の安全や健康にも影響を及ぼしかねない問題となっています。登録看護師の高齢化もあり、このままでは今後看護師の数が減少する可能性があることを踏まえると、早急な改善のための取り組みが必要であるといえます。喪失し、心身の健康に問題を抱えることとされています。また、採用後 5 年未満の看護師にとって同期や同僚は重要な相談相手であり、その関係性が離職の抑制要因になり得ることが明らかになっています。したがって、看護学生や新人看護師に対しては、身体的・精神的健康の維持を支援する体制に加えて、社会的な支援を気軽に受けられるようにすることが不可欠です。一方、中堅看護師に対しては、看護師の自律性を促進するストレス・マネジメント教育や、専門性を高め自己啓発できる職場環境の整備が効果的であると考えられています。中堅看護師の離職要因は、「人間関係のストレス」などネガティブなものだけでなく、将来設計を前向きに考えた「キャリアアップ」のようなポジティブなものもあり多岐に渡っています。自らのキャリアを主体的に設計できる環境を整えることが、長期的な人材確保につながると言えます。 また、カナダにおいても、日本と同様に組織レベルでの包括的な取り組みが看護師不足の解消に効果的であるとされています。カナダ看護師協会(Canadian Nurses Association)は、職場環境の改善を中心とした複数の施策を提唱しています。 また、日本だけではなく、カナダにおいても看護師不足は国の医療ケアシステムが抱える深刻な問題とされています。2018 年の分析によると、カナダでは 2030 年までに約 11万 7,600 人の看護師が不足すると予測されています。また、2020 年のデータによると、直接的なケアに従事する登録看護師の約 3 分の 1 が 50 歳以上であり、今後退職時期を迎える人材の増加が懸念されています。 2024 年にカナダ看護労働組合連合(Canadian Federation of Nursing Unions、CFNU)が 5,595 人の看護師を対象に実施した調査によると、看護師不足による影響は多岐にわたります。まず、人手不足により一人あたりの業務量が増加し、看護師が慢性的な疲労や集中力の低下を感じたまま勤務せざるを得ない状況が生じています。これにより、結果的に医療ミスを引き起こしたり患者の安全に直接的な影響を及ぼしたりする可能性があります。また、慢性的な疲労は看護師自身の健康にも悪影響を与え、欠勤や休職の増加を招いています。実際、2022 年には、カナダの看護師の病気や休暇による欠勤は平均 19 日間に達しています。これは 2021 年の 14.7 日から増加傾向にあるだけではなく、政府職員や民間企業の従業員が取得する病欠日数の 2 倍以上にあたります。そして、看護師の燃え尽き症候群(バーンアウト)も大きな問題となっています。カナダの看護師のバーンアウト率は上昇しており、 日本の看護師不足の解消のためには、既存の人材の離職を防ぐことが最も重要な課題と言えます。特に、近年は新しい人材の確保が難しく、既存の看護師の離職による人員の減少を食い止めることが急務であると考えられます。改善策としては、まず賃金の引き上げが挙げられます。日本の看護師業界では、人手不足や労働環境に加えて、賃金水準の低さも大きな問題となっています。日本看護協会の 2024年度の「看護職員の賃金に関する実態調査」によると、看護職員の基本給が 12 年前から 6,000 円弱しか上がっていないうえに、夜勤手当もこの 10 年間で 2 交代が約 1,000 円の増加にとどまっています。こうした状況により、病院で働く多くの看護職員が今の賃金水準に不満を抱いていることが考えられます。給与の水準を見直し、労働負担に見合った報酬を得られるようにすることは、看護師のモチベーション維持と職場への長期的な定着に直結しうる重要な取り組みであると言えます。 また、明治学院大学の『経済研究』に掲載されている「看護師の離職要因と就業継続支援に関する一考察」によって、それぞれの看護師のキャリアに応じた支援を行うことが離職防止に効果的であることがわかっています。例えば、新人看護師の場合は、採用後早期に同期や同僚との交流の機会を設けることや、業務にやりがいを感じるような経験を積める環境を整備することが重要です。研究によると、新人看護師の離職の主な原因は、理想と現実のギャップに直面して自信を

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