THE NEWZ Vol.32 日本語
14/18

 国の政策は、私たちの毎日の選択を左右する「環境」をつくります。ここで、ハンガリーと日本の主な違いを見ていきましょう。 はじめに13センメルワイス大学(ハンガリー)高野内 翔太1) どれくらい差があるのか?2) 政策という「道筋」:不健康な食品への課税 vs 学校で習慣を育てる このテーマを選んだ理由は、日々の暮らし(何を食べ、飲み、食に関するルールがどうあるか)と、各国の政策につながりを見出すためです。そして何より、私にとって大切な二つの国、故郷の日本と、医学生として暮らすハンガリーを比べる良い切り口でもあったからです。この記事では、この差がなぜ生まれるのか、そして互いの国から何を学べるのかを考えていきます。た国(日本など)でも上昇はしているものの、より低い水準からの増加(年 1 〜 2% 程度)にとどまっています。つまり、この差は時間とともに消えずいまでもはっきりと残っているのです。 面白いことに、肥満はひとつの行動だけで決まるものではなく、食事パターン、おやつ、塩分や砂糖、アルコール、身体活動といった生活習慣の “ セット ”、さらにその国の政策(不健康な製品への課税、学校給食の基準、教育)といった要因が組み合わさって生まれます。この “ セット全体 ” を比べることで、差がどこから生まれているのか、そしてどんな対策が効くのか、が見えてきます。日本の制度的アプローチ:学校給食+「食育」 日本は「食育」を国家的な枠組みとして整備しました。学校では栄養士が学校給食を “ 生きた教室 ” として活用し、子どもたちは食べながら食材、栄養バランス、味覚、マナーを学びます。これは一時的なキャンペーンではなく、日々の積み重ねです。政府は食育基本法や文部科学省の学校給食に関するガイドライン等でこれを実現しています。この政策の目的は、後から不健康な選択を罰することではなく、早いうちに良い習慣を身につけることにあります。ハンガリーは 2011 年、砂糖・塩・カフェインを多く含む ブダペストの友人に日本のことを聞かれると、よく「どうして日本の人はそんなに細いの?」と言われます。ハンガリーでは肥満気味の人が多く、私たちの間でも「ここで健康的な食生活を続けるのは難しいよね」という話題がよく出ます。これは個人の話ではなく、国全体の傾向なのだと気づきました。国際的な統計データでも、日本とハンガリーの成人肥満にははっきりとした差が示されています。 まずは数字から見てみましょう。肥満を国際的な標準(BMI≥ 30)で定義して作られた世界ランキングでは、ハンガリーは高所得国の中でも上位、一方で日本は最下位に近い位置にあります。最近の国際的な統計では、ハンガリーの成人肥満率はおよそ 30% 台半ば、日本はおよそ 8% です。この時点で、差が大きいことがはっきりしています。データの取られた年や方法は資料によって少しずつ違いがありますが、全体として傾向は一貫しています。両国は “ 肥満マップ ” の両端に位置しているのです。 OECD の追跡によると、もともと肥満率が高かった国(ハンガリーなど)は年に約 1% ずつ上昇を続け、もともと低かっハンガリーの財政的アプローチ:公衆衛生製品税(PHPT)製品に特別税を導入しました。発想はシンプルで、不健康な選択肢を割高にし、企業に配合の見直しを促す、そのうえで税収を健康施策に回す。WHO ヨーロッパの評価では、この税により対象製品の消費が減少し、砂糖や塩分の低減などの改革が進んだことが示されています。もちろん万能薬ではありませんが、食品市場を方向づける国レベルの明確なシグナルになっています。税か、習慣か。

元のページ  ../index.html#14

このブックを見る