THE NEWZ Vol.32 日本語
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5アメリカとの比較:なぜカウンセリングが身近なのか? まとめ1. 保険制度と費用2. カウンセラーの社会的地位と資格制度 日本では、心の健康を保つためのカウンセリングが、欧米に比べて普及していないという深刻な課題があります。この背景には、メンタルヘルスの不調による休職者の増加や、先進国の中でも依然として高い自殺率といった社会問題が存在します。カウンセリング普及を阻む理由は主に以下の 3 つの要因から成り立っています。文化的背景:「我慢は美徳」と「同調圧力」 精神的な辛さを自力で耐え忍ぶことを美徳とし、他人に弱みを見せることに抵抗を感じる文化が根強くあります。また、集団の和を重んじる「同調圧力」の中で、周りと違う悩みや考えを表明することが難しく、多くの人が自分の感情を抑圧してしまいます。制度的な課題:経済的負担と資格の歴史 アメリカではカウンセリングの多くが保険適用となるのに対し、日本では自費診療が中心で、1 回数千円から 1 万円以上という経済的なハードルが存在します。また、専門家の国家資格である「公認心理師」が 2017 年に誕生したばかりであり、カウンセラーの社会的地位や専門性に対する認知がまだ途上段階にあります。教育の遅れ:学ぶ機会の不足 これまで学校教育でメンタルヘルスについて体系的に学ぶ機会がほとんどありませんでした。2022 年から高校の保健体育で「精神疾患の予防と回復」が導入されましたが、これは大きな一歩であるものの、より早期の小中学校からの教育や、教員自身の理解を深める取り組みが今後の課題です。 対照的に、アメリカではカウンセリングがより広く受け入れられています。欧米諸国のカウンセリング利用経験率に関する調査によると、アメリカ 40.3% にのぼります。これは、精神疾患の治療だけでなく、「心の調子を整える」といった日常的なメンテナンスとして気軽に利用されているためです。アメリカでは、ほとんどのカウンセリングに医療保険が適用されます。これが、利用のハードルを大きく下げている最大の理由の一つです。 日本では保険適用外のカウンセリングが主流で、1 回あたり 6,000 円〜 8,000 円が相場です。保険が適用されれば、自己負担額は 2,000 円程度に抑えられ、経済的な負担が大きく異なります。アメリカではカウンセラーの専門性が社会的に確立されています。資格制度 : アメリカでは、カウンセラーの資格は州ごとに定められた州立資格です。一方、日本では 2017 年に国家資格「公認心理師」が誕生するまで、全ての心理資格は民間資格でした。養成期間 : 専門家としての地位が確立されているため、資格 取 得 ま で の 道 の り も 長 く な り ま す。 日 本 の「 公 認 心 理師」が最短 6 年で取得可能なのに対し、アメリカで心理学者(Psychologist)になるには、博士号の取得を含め最短でも 10年を要します。 このように、制度的な基盤がしっかりしていることが、国民の信頼とカウンセリングの普及につながっているのです。カウンセリングの本来の役割:カウンセリングは、精神疾患の治療(治療モデル)だけでなく、人間関係の悩みや生きづらさの解消、自己成長を目指す(成長モデル)ためのものでもあります。カウンセラーは一方的に助言を与えるのではなく、対話を通じて相談者自身が課題を整理し、自らの力で解決への道筋を見つけるための「伴走者」です。この本来の役割が広く理解され、誰もが必要な時に気軽に専門家のサポートを受けられる社会を築くことが、今後の日本にとって重要な課題と言えるでしょう。

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